アンサンブル音坊主 ギョーム・ド・マショー:「ダヴィデのホケトゥス」vn.vc.cl.pf版(編曲:夏田昌和) Guillaume de Machaut : “Hoquetus David”
曲目解説 / 夏田昌和(作曲家)
ギョーム・ド・マショー:<ダヴィデのホケトゥス>
Guillaume de Machaut : <Hoquetus David>
「メシアンへと続く道」は、西洋音楽史を駆け足で巡る旅でもある。グレゴリオ聖歌を起点に、初期のポリフォニーが生じたのが9世紀頃、12世紀半ばのゴシック時代には西洋音楽史上初めて”作曲家”や”作品”が登場してくる。そして今から700年近く前の14世紀フランスで、一人の芸術家によって西洋音楽のポリフォニーは最初の頂点を迎えることになるが、その人物こそアルス・ノーヴァを代表する詩人にして作曲家のギョーム・ド・マショー(1300年頃~1377)である。マショーは数多くのシャンソンやバラード、ロンドー、モテット他を残したが、なかでも<ノートルダム・ミサ>は、一人の作曲家がミサの通常文全体をポリフォニーで作曲した最初の例として知られている。
<ダヴィデのホケトゥス>は、マショーが残した唯一の純粋な器楽曲(編成の指定はない)で、聖歌のアレルヤ唱「栄光の乙女マリアの御生誕」の中の単語「ダヴィデ」を歌うメリスマ部分をテノールの定旋律に用いていることから、この名で呼ばれている。ホケトゥスとは、2つの声部が一音毎に交互に発音することで1本の旋律の様に聞かせる技法で、この楽曲ではモティーフを緊密に模倣しあう上2声部において時折効果的に用いられている。構造上一層興味深いのは、イソリズム技法が用いられているテノール声部(この編曲ではチェロと、カリヨンの音色を模したピアノが担当)である。イソリズムとはアルス・ノヴァにおいて多用された一種のオスティナート技法だが、旋律線の反復単位(コロール)とリズムの反復単位(タレア)が互いに独立しているという特徴をもつ。この<ダヴィデのホケトゥス>では、32個の音からなるコロールが計4回繰り返される間に、タレアは33拍から成る第1の型が8回、27拍から成る第2の型が4回反復される。旋律が繰り返される度に異なるリズムによる一方、リズム型も反復する毎に異なる音高表現をもつ訳だが、これはメシアンが<世の終わりための四重奏曲>の第1楽章においてチェロやピアノのパートに用いている「リズム・ペダル」の技法と全く同じ発想であるといってよい。時を超えた遥かな旅の始まりへと我々を誘う華やかなファンファーレとして、お楽しみ頂きたい。
Violinist 蓑田真理 Official Web Site
バイオリニスト蓑田真理 Mari Minoda : 古典音楽から、新作初演までバロックバイオリンとモダンバイオリンを演奏する他ソロ、室内楽、オーケストラ等で幅広く活動中。国内外を行ったり来たり、ジャンルも行ったり来たり。2019年〜London →→2024年日本に完全帰国。主に東京、関西で活動中。 お問い合わせ MAIL:minoda.violin@gmail.com
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