フランソワ・クープラン:クラヴサン曲集第3集、第14組曲より「恋の夜鳴きうぐいす」
François Couperin : “Le rossignol en amour” extrait de 14e ordre, Troisième livre de pièce de clavecin
バロック時代フランスの作曲家・オルガニストであるフランソワ・クープラン(1668~1733)は、ドイツのバッハ一族にも比肩する音楽家一族であるクープラン家の中でも最も名が知られており、大クープランと称されることもある。全4巻27オルドル(組曲)合わせて240曲近くにも及ぶクラブサン曲集を始め、オルガン・ミサ曲やトリオ・ソナタ、コンセール(合奏のための組曲)など、主に器楽・室内楽の分野に多くの優れた作品を残した。
クープランのクラヴサン作品は何らかの標題を持つものが多い この点大バッハとは対照的である が、計7曲より成る第14組曲では1曲目の<恋の夜鳴きうぐいす>に始まり、<おじけた紅ヒワ>、<嘆きのムシクイ>、<勝ち誇る夜鳴きうぐいす>と前半4曲までもが鳥にまつわる楽曲で占められている。この<恋の夜鳴きうぐいす>はニ長調、ゆっくりとした6/8拍子のクープランらしい典雅な美しさを湛えた音楽で、後半部分においてモルデントや加速するトリルを伴いつつ反復されるホ音が、ナイチンゲールの歌声の描写となっていることで名高い。
自然界の音で鳥たちの囀りほど、我々人間に「歌声」として聞かれるものはないであろう。古くはルネッサンス時代の作曲家ジャヌカン(鳥の歌)や、クープランの同時代人ヴィヴァルディ(春)、そしてベートーヴェン(田園交響曲)、ワーグナー(ジークフリート第2幕、)マーラー(交響曲第1番)、ラヴェル(ダフニスとクロエ、マ・メール・ロワ)、ストラヴィンスキー(ナイチンゲールの歌)・・・と、すぐに思いつくだけでも錚々たる作曲家が様々に鳥の歌声を聞き取り、作品に登場させている。<世の終わりのための四重奏曲>の第1楽章<水晶の典礼>でもヴァイオリンによってナイチンゲール(夜鳴きうぐいす)の囀りが披露されるので、両者を是非比較してお聴き頂きたい。ナイチンゲールの歌声自体は今も昔もそれほど変らないであろうが、2世紀半の間に作曲家の耳や時代の音楽様式、記譜の精度は大きく変化している。当然両者の隔たりは小さくないのだが、それでも両方ともちゃんと”鳥”に聞こえるのでご安心を!
「何を象徴しているのかと問われれば、鳥は自由の象徴だとしましょう。私たちは歩き、彼は飛ぶ。私たちは戦争をし、彼は歌う・・(中略)・・鳥の歌のように至上の自由に満ちたメロディーやリズムを、どれほど感銘を受けた音楽だとしても、人が創造した音楽に見出せるでしょうか。」(メシアン)
解説 夏田昌和
Violinist 蓑田真理 Official Web Site
バイオリニスト蓑田真理 Mari Minoda : 古典音楽から、新作初演までバロックバイオリンとモダンバイオリンを演奏する他ソロ、室内楽、オーケストラ等で幅広く活動中。国内外を行ったり来たり、ジャンルも行ったり来たり。2019年〜London →→2024年日本に完全帰国。主に東京、関西で活動中。 お問い合わせ MAIL:minoda.violin@gmail.com
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